趣 意

 神々の座ヒマラヤも、めぼしい未踏峰は残らず登頂されて久しく、また、昨今ではビジネスとしての公募登山によってヒマラヤの大衆化が進み、もはやこの秘境の地にロマンを求めた時代は過ぎ去った感があります。
 このようなヒマラヤにおいて、依然として未解決のこと(ロマン)が残されています。
 それは「イエティ・雪男の謎」です。
 イエティについては、その存在に疑問や異論もある反面、イエティらしきものを見たとの情報が後をたたないのも事実です。これらは、主に高山帯で不可解な獣を目撃、または遭遇したというもので、この中には、誤認や錯覚としては説明不可能な事例も少なからず含まれております。
 さらに未知の生物が目撃されている地域では、人間の足跡によく似た蹠行性歩行をする動物の足跡が発見されています。いわゆるイエティの足跡といわれているものです。足跡の形状及び発見地点の環境条件などから判断する限り、ヒマラヤ熊やラングール猿の足跡と考えることは不可能です。この2足歩行をしたとも思われる不思議な足跡の主と、目撃される未知の動物は同一とみることが自然であり、それがどのような生き物かわかりませんが、ヒマラヤの地に実在するものと考えております。
 私どもはこのイエティの実体を解明するため、1994年8月から10月にかけてダウラ・ヒマールにて捜索を実施いたしました。結果的には謎の解明にまでは至りませんでしたが、いくつかの興味深い観察をすることができました。それはあらためて、ほかにもう一種類の蹠行性歩行をする大型動物の棲息を示唆するものでした。

 私どもは、前回の手がかりをもとに、より充実した態勢で再捜索を行なうつもりです。そして、今度こそイエティとはどんな生き物かを明らかにしたいと思っております。

2003イエティ捜索隊

隊長 高橋好輝

 

 好奇心と責任

  8月から9月にかけて、コーナボンの谷は各種の高山植物の花で埋まります。イエティに花を愛でる感性があるとすれば、この季節、ここは楽園のはず。また、晴れた日に南東稜の上に立てば、北にダウラ・ヒマールの連山が輝き、南には遠くマハバラータ山脈まで一望することができます。私にとってもこの地は思い出深いところです。1971年及び1975年にはこの稜からダウラギリW峰を目指していました。1994年、イエティ捜索チームとして三たび訪れた時、当時のキャンプ1の石積みが古代遺蹟のように残っており、5100m地点では71年に使用したオーバーシューズが雪の下から見つかりました。

 二度と来ることもないと思っていたこの山に、私は今また行こうとしています。未知に対する人間の好奇心には際限がないようです。

 いずれにしても、この地はイエティの領域であり、我々は招かれざる客であることに違いはありません。それだけに、首尾よく撮影に成功し、それが注目に値する動物だとわかった時、私たちの好奇心は満たされます。しかし、「イエティの謎」という扉をこじあけようとするからには、当然その結果おこる事態に対しての責任も負わなくてはなりません。少なくとも発見したことにより、その動物を絶滅の危機に追い込むようなことがあってはならないのです。そのためには、私たちに何ができるか、存在を認めた上で共存していくことができるか、私たちの資質も試されているのです。                              

                               (文責:高橋好輝)